映画は土から生えてこない

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『創造物』(1966)/アニエス・ヴァルダは柔らかく突き刺す

映画『創造物』の1シーン。白黒。テーブルで向かい合う男女が手を取り合っている。男性は白いシャツを着ており、女性は編み込んだ髪と装飾のあるドレスを着用。背景には古びた壁があり、テーブルの上にはカニが入った開いたスーツケースと果物が置かれている。

1966年製作/95分/フランス
原題または英題:Les creatures

U-NEXTで配信中
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監督・脚本 アニエス・ヴァルダ
出演 カトリーヌ・ドヌーブ ミシェル・ピコリ

あらすじ

とある島に移住してきたミレーヌカトリーヌ・ドヌーブ)は、SF作家である夫のエドガー(ミシェル・ピコリ)が起こした自動車事故で口が聞けなくなってしまう。エドガーは、外出したがらないミレーヌのために雑事をこなすが、ある日露天商の二人に襲われてしまう。その翌日には家の玄関前に黒猫の死体が置かれたり、自分の意思に反して急に暴力を振るってしまったりと、不可解な出来事が立て続けに起こる。これらの出来事の原因が謎の金属片にあることを突き止めるエドガーであったが……。

 

感想

いつの間にか配信されていたアニエス・ヴァルダ初期の長編。まずは一切の前情報を入れずに見て、度肝を抜かれてほしい。途中で「画面の故障?」と思われるかもしれないが、それは故障ではないのでご安心を。見終わったあと、またこのブログに戻ってきていただけたらありがたい。

 

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見ましたか?凄まじいと思いませんか?SFでアクションでミステリーでサスペンスでホラー。無数の語り口。ヴァルダの底知れなさ。映画を映画で批評しており(もちろんその射程は映画の範疇に留まらない)同時代のフランスでどんな連中が映画を作っていたかを考えると、ひたすら痛快である。

まずぎょっとするオープニングに度肝を抜かれるだろう。自動車事故のカットと無機物めいた蟹の裏側(しかし有機的にうごめく)のカットを編集で繋げた作家がいただろうか。生き延びた男の額に大きな傷。声が出ないとはいえ何故か無傷の女。彼女は一歩も家から出ない。この時点で、これは幽霊の話だと思った。事故で彼女は死んでしまったのだと。ヴァルダが繰り返し描く「自分の理想を女性に投影して悦に入る男性」の図だと。ヴァルダ作品恒例の不穏な劇伴がひっきりなしに鳴る。コンパクトのようなものをポケットに忍ばせる謎のインサート。

頭上に疑問符を浮かべていると、玄関前には黒猫の死体が。シーツ屋の嫌がらせか。どこの家の猫なのか、町民に聞いて回る男。ホテルのシェフに「何故殺した?」と詰め寄られると、にわかにモノクロの映像が真っ赤に染まる(モニターの故障かと焦った)。急に粗暴になる男。映像がモノクロに戻ると男も我に帰る。??????

いくつもの疑問を抱えたまま見進めると、町民の会話だと思っていたシーンが男の小説の一節だったと判明する。一体どこまでが現実なのか。また一つ疑問が生まれるやいなや、塔に住む技師が謎の装置を使って町民を操っているというSF展開。映像の中のスクリーンにさらに映像が投影され、にわかに物語は入れ子構造に。”創造者”の男たちは偶然と故意を半々に、町民を操るゲームを始める。男たちは老人に暴力を振るわせ、ホテルの女主人を惚れっぽくさせ、若い男女をわけもなくくっつける。同時代の男性監督が作っていたメイルゲイズまみれな作品群への、鋭く批評的な表現だ。ここで再び映像を色で染める表現が出てくるが、おおまかに赤は「暴力・緊張・衝動」といった要素を、ピンクは「喜び・愛・弛緩」といった要素を表しているようだ。これは『幸福』での厳密な色彩設計(「家庭」の青、「秘密」の赤、二つが交わる紫、ひまわりの黄色など)も想起させる。制作順としては『幸福』の直後に『創造物』が製作されている。

また、このパートでの特撮にも目を見張る。『スターウォーズ』(1977)を先取りしていたかのような、合成を使った「駒が自ら動くチェス」の描写。塔に住む技師が老人に子どもを襲わせようとしたところで「これはダメだ」と小説家の男がゲームを強引に中断。ここだけ少し引っかかる。「性暴力は許されない」と、あるいはもう一歩踏み込んで「カジュアルに性暴力を映像化するべきではない」と言うためにそのようなシーンを撮影してしまっている。筋は通っていない。

この荒唐無稽かつ恐ろしいゲームを踏まえて、女は幽霊ではなく、男の創作物の一部だったのかもしれないと気づく。女もチェスの駒に過ぎないのだろうか。もし映画の冒頭からこのゲームが始まっていたら?そもそも彼女は存在していたのだろうか。塔を抜け出す際に男は謎の技師と揉み合い、技師を突き落とす。下にあったガラス天井の小屋に技師が勢いよく突っ込む、非常に短いカット。人形を使って撮影しているが、その生気のなさと落下速度が、かえって暴力性を高める。そういえば序盤、男とシーツ屋2人が取っ組み合うシーンもアクション的な興奮に満ち満ちていた。どの動きを寄りで見せ、どの動きを引きで見せるかが的確。編集にも無駄がない。昨今のアクション映画のように、無闇やたらとカメラを振り回すような愚行はもちろんない。男をシーツに包む動きと、次のシーンに移るための明転がスマートに繋がっているのもお見事。全てはタイミングなのだとヴァルダが教えてくれる。彼女がアクション映画監督になっていたら、映画界はどのように違っていただろう。

話を戻して、塔から出たと思った男は気づくと森に横たわっていた。夢?ホテルの女主人曰く、塔の技師は3日前に頭から飛び降りたとのこと。これは男の小説の中の話?現実?幾重にも積み重なっていく謎。何故かみごもっている女。家に医師を呼ぶ。「もう終盤ですよ」というメタ台詞。無事出産。「男の子です」のセリフから、フレーム中央に泣く赤子。ゆっくりとズームしていって明転。終了。

紛れもない『創造物』の話だった。物言わぬドヌーヴ、町民を操るゲーム、そしてラストの出産。改めてはっきり言うならば、これは同時代の男性の創作がいかに非論理的で、そして女性に対していかに抑圧的だったかということを示唆する作品だ。それでいて、動物と会話するシーンや荒唐無稽なSFアイテムでコミカルにコーティングされてもいる。見かけの柔らかさに油断していると突き刺される、それがアニエス・ヴァルダ作品の比類なき魅力である。

 

配信の経緯など

今作は日本劇場未公開、未ソフト化で視聴困難だった作品だが、2024年8月にBS10スターチャンネルの「木曜 夜なべ激レア」枠にて放送、その後スターチャンネルEXで配信開始され、随時他の配信プラットフォームに移っていったようだ。ヴァルダには珍しいシネマスコープ作品なので、ぜひとも映画館のシネスコスクリーンで鑑賞したい。もちろんBlu-ray化も待ったなしだが、同じ企画で放送された『ル・バル』はソフト化されるにもかかわらずこちらは音沙汰なし。劇場公開するための調整であってほしい。

BS10スターチャンネル特集ページ
https://www.bs10.jp/star/news/detail/641/

BS10スターチャンネル『創造物』作分紹介ページ
https://www.bs10.jp/star/movie/detail/33089/