映画は土から生えてこない

人がいて、映画ができる。

ニナ・メンケス『The Bloody Child』(1996)

the bloody childのポスター。軍人の服装をした主演ティンカ・メンケスが手に顎を置いてこちらを向いている。肌の色は赤く編集されている。タイトルの「L」の文字が木のようになっている

画像引用元:The Bloody Child (1996)|imdb.com

1996年製作/85分/アメリ
日本劇場未公開

監督 ニナ・メンケス
脚本 ニナ・メンケス
撮影 ニナ・メンケス
編集 ニナ・メンケス

出演 ティンカ・メンケス

 

感想

英語字幕付きで見たけど、例によって全然説明しない映画なので日本語字幕だったとしても全貌がすんなり理解できることはないかも。「こういうこと、なのかな……?」くらいにしかわからない。

車の後部座席で死んでいる女性と加害者であろう男性を見つけるティンカ演じる軍人とその部下。前夜の加害者男性の行動と、軍人がわらわら集まってきてどうしていいものか考えあぐねている様子、ティンカの過去とも心象風景ともとれる詳細不明の8mm映像が時系列も脈絡も曖昧なまま延々と交差し続ける。

実際の事件を下敷きにしているらしいけど、死んでいる女性と加害者らしき男性の関係もよくわからないまま、軍人たちは事件と関係ない話や「女が男を騙そうとしたんだろ」と勝手な憶測を喋り続ける。

ティンカ演じる上官は部下に簡潔な指示を出したり、男に向かってミランダ警告(「あなたには黙秘権がある〜」)を淡々と述べたり、部下からの報告を受けていたりと、主体的な行動はほぼ描かれないが、8mm映像の中では密林の中で全身を真っ白に塗ってうずくまっていたり、アフリカのどこかに赴いて街中で項垂れ、洗礼のようなものを受けていたりする。これがどういう映像なのかの説明も一切ない。

とにかく居心地が悪い。全編通して中身の掴めないモノローグ(「私たち3人はどこで再会する?」「鏡よ鏡……」「眠れ、眠れ……」)、人が死んでいるのに世界は一切動じていない空気、死んでいる女性に男の顔を押し付けて「これがいいのか!」と怒鳴り続ける部下の暴力性、軍人同士の会話からほのかに香るマチズモ、決して表出することのないティンカの内側にある何か、それらすべてが不穏。

そこに唯一何の影響も受けない存在として黒馬が事件現場に現れ、意のままにフレーム内を闊歩する。黒馬は限りなく自由にも見えるし、所在なくも見える。

えらい難解だけど、キレキレのファーストカットでお釣りが来る。あとは身を任せるだけというか。わからなくても満足感がある。