画像引用元:アイルランド発ヒップホップトリオを映画化 『KNEECAP/ニーキャップ』8月1日公開へ|Real Sound|リアルサウンド 映画部
2024年製作/105分/R18+/イギリス・アイルランド合作
原題または英題:Kneecap
配給:アンプラグド
劇場公開日:2025年8月1日
監督 リッチ・ペピアット
製作 トレバー・バーニー ジャック・ターリング
脚本 リッチ・ペピアット
撮影 ライアン・カーナハン
音楽 マイケル・“マイキー・J”・アサンテ
出演 モウグリ・バップ モ・カラ DJプロヴィ マイケル・ファスベンダー シモーヌ・カービー ジョシー・ウォーカー
感想
とにかくKneecapの曲が好きだ。初見はコーチェラの配信だったか「コーチェラでの配信が取り消されたバンドがいる」という話を聞いたところだったかは忘れてしまったが、初めて聞いた時から直球に00年代なトラック(最近の楽曲だけかもしれないが)と的確に帯域の間隙を衝く声色だけで、いくらでも聞いていられると思った。そのうえ歌詞にはアイルランド語、そしてアイルランドという国そのものの反骨精神がこれでもかと詰め込まれている。さまざまな筆者の事情もあり、けして目を離せないアーティストになった。
今作は先述のようなKneecapの音楽性、政治的アティチュードが色濃く反映されており、観客の期待には99%以上応えてくれる。そのうえで、筆者は彼らの音楽に強い思い入れがあるため、もう少しライブシーンを増やして音楽映画としての強度を高めてほしかった気持ちがある。1シーンにつき1曲の演出が多く、まとまった数曲を聴かせる展開がなかったのは惜しい。最後のライブは2〜3曲やってから逃亡の流れでも良かったと思う。
監督のリッチ・ペピアットは新人と言ってもいいほどのキャリアしかないが、意外と撮影や編集、ルックのセンスはしっかりしており、最後まで飽きずに見ることができたのも嬉しい誤算だった。撮影監督のライアン・カーナハンは、ケネス・ブラナー監督の『ベルファスト』やApple TVのシリーズ『テッド・ラッソ』にも参加しているらしい。ケタミントリップもありがちなサイケビジュアルに逃げず手が込んでいたのはリアルな体験に基づいているからだろうか……。
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こういう作品で女性が男にとって都合の良い存在になるパターンは多い(公式パンフレットでも挙げられている『ハッスル&フロウ』など特にひどい)が、ジョージア(ジェシカ・レイノルズ)は自分から性に積極的な感じだったし、アイルランドに暮らすプロテスタント系として設定に深みがあるため、意外と細部まで考えられている印象を受けた。性病検査はしっかりしろよと思うし、若干ゲイフォビアっぽい表現はあるし、マイケル・ファスベンダーはえげつないDV疑惑がある(そのうえであの役?)。引っかかるところもなくはない。本作のこういった瑕疵は「気骨あるアーティストだから」で看過する必要はないと考える。映画とは別で評価すればいい話だ。Kneecapの姿勢自体はほぼ全面的に支持できるものであるし、芸術評議会からの助成金を土壇場で断られ「国の意向に沿う音楽作れってか?くたばれ!」で終わらず、裁判を起こし、勝訴して得た助成金を全額ベルファストの慈善団体に寄付したエピソードなど、「マジでカッコいい」としか言いようがない。
「アイルランド語は自由への弾丸だ」というフレーズは、裏返せば「本物の銃・弾丸は要らない」ということだ。薬物反対のリパブリカン(ナショナリスト強硬派)たちが実はハリボテの組織で、武器を手に入れるために信条を捨てているという設定からも、この世にある兵器・武器は総じて "shite" だという彼らの想いが伝わってくる。プロパレスチナ、反戦のメッセージとして、これ以上のものはない。今後もKneecapを注視する。
🇵🇸
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以下、映画を見る前に押さえておいた方がいいと思った知識や、勝手に調べたアイルランド語情報
・オレンジ・パレード
ベルファストで、「オレンジメンズ・デー」と呼ばれる7月12日に行われたパレード。オレンジ結社とは、北アイルランドに住むプロテスタントたちの政治団体。
参考記事:
平和なパレードにゴミ箱を投げつける男性...そこにあった深い文化的背景とは?|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
・Parful
冒頭で流れる楽曲のタイトル。アイルランド語のスラングで「最高!(a good thing)」の意味。
参考記事:
20 mad Northern Irish phrases only the LOCALS know