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『ガリレアの婚礼』(1987)|パレスチナの空に響く歓声と銃声

1989年当時の映画「ガリレアの婚礼」のポスター。髪飾りをつけた女性の顔のアップ。顔の右半分は白い布で隠れている。「占領下パレスチナ。祭りをよそおう危険な一日が始まる」というキャッチコピーやタイトル、スタッフ名が記載されている

1987年製作/116分/ベルギー・フランス合作
原題または英題:Noce en Galilee
配給:シネマトリックス
劇場公開日:1989年5月13日

監督 ミシェル・クレイフィ
脚本 ミシェル・クレイフィ
撮影 ウォルター・ヴァンデン・エンデ
音楽 ジャン=マリー・セニア
編集 マリー・カストロ・ヴァスケス

北千住シネマブルースタジオで35mmフィルム上映中
上映期間 : 2025/4/9(水)~2025/4/22(火)
上映時間 : 14:00/19:00
https://www.art-center.jp/tokyo/bluestudio/schedule.html

作品の概要や監督・脚本ミシェル・クレイフィのプロフィールなどはこちらから詳細が確認できます↓
https://www.jca.apc.org/~nakanom/Espacio/Khleifi.htm

 

感想

冒頭、単にクレジットの背景だと思っていたものが、カメラをゆっくりと下方向にティルトしていくと実は青い空だったとわかる演出から引き込まれる。PLOによるものものしい映画が主流だった時代に、”背景”とされているパレスチナの人々・文化を主体的に描こうとしたミシェル・クレイフィ監督の思いが、すでにここで表れているのかもしれない。その後は外出禁止令が出ている地域で何としても結婚式を開催したい村長とイスラエル軍を呼ぶなどもってのほかだとする勢力との諍いや、結婚式におけるいくつもの儀式を詳細に描く様子などが続く。ふとした不注意から村の大事な馬が逃げ出し地雷地帯に入ってしまう展開はとてもスリリングなうえ、救助に協力しようとするイスラエル軍と救助なしに馬を助けようとする村長の対比が、巧みに現実を切り取る。

今作で描かれるパレスチナの結婚式文化は今までに鑑賞したパレスチナ映画では見られないものだった。色とりどりの料理が並び、酒が酌み交わされ、多種多様な歌曲が全編に響き渡る。とりわけ村の女性たちが花嫁を、男性たちが花婿の体を洗うシーンでは妻の全身が顕わになるショットが多く、その後も花婿の妹(だったたしか)が自らの体に見入るシーンや、男女カップルが原っぱで疲れて寝ているシーンなど女性の裸がよく映る。これもフェミニストを自称する監督が、肌を覆うよう促されるイスラム教徒(ガレリア地方はパレスチナキリスト教徒が多数派の地域とのことで今作で描かれている文化もパレスチナキリスト教徒のものなのでこの指摘は当てはまりませんでした。訂正してお詫び申し上げます -2025.04.13追記)パレスチナの女性たちのありのままの姿を描くため、意識的に取り入れているのではないかと思われる。イスラエル軍の女性を村の女性たちが介抱するシーンでは、女性同士のクィアなフィーリングも醸されている。若干メイルゲイズ寄りな気もするが、時代と情勢を考慮すればあのようなバランスになるのも不思議ではないかもしれない。男性の裸も同様に映し出されていればよりイーブンな表現になっただろう。また、暗がりの部屋で妻を襲っている夫を見つけた強硬派の青年たちが、咳払いをして夫を追い出すシーンがあり、これもイスラム教における結婚文化の現実を監督なりに示したものだろう。青年たちは決して飛び入って止めたりするわけではなくあくまで男に退室を促すだけで、ある意味このような暴力的関係を黙認しているようにも見える。

作品の後半では、花婿と花嫁を一部屋に押し込め、シーツに血がつくまで出てきてはならないという「床入りの儀式」にフォーカスが移る。作中で陽が落ちていくにつれて映像もどんどん暗くなり、穏健派、強硬派、イスラエル軍、秘密警察、それぞれの緊張もどんどん高まっていく。「床入りの儀式」の内容にショックを受けてしまったのと、映像の暗さ、食後の睡魔が相まって若干うとうとしてしまい、この辺りの記憶が定かではないが(申し訳ない)、強硬派のリーダーと目される人物が火炎瓶を用意する若衆に「犠牲者が出ることを考えろ!」と一喝するシーンが印象的だった。作中何度か繰り返される「軍靴の下では祭りの成功などあり得ない」といったようなスローガンも記憶に残っている。ただならぬ緊張状態に囲まれていることから床入りを済ませられない花婿に対して花嫁が優しく寄り添っていたが、どのようなセリフが交わされていたかは覚えていない。

結局、結婚式は最後まで無事執り行われイスラエル軍は帰っていくが、その翌朝には荒野をかける少年を狙い打つ銃声がガリレアの空に響く。命からがら木陰に隠れた少年は無事村に帰り着けたのか。彼を助けられるのは紛れもない、40年後の未来を生きる我々である。現在もパレスチナではイスラエル軍による虐殺が進行中だ。寄付やデモへの参加、政府への署名提出、arab.orgでのクリックでも、パレスチナ関連の書籍を読むでも、今作『ガリレアの婚礼』のようなパレスチナに関する映画・ドキュメンタリーを見るなど何でもいい、何か少しでもいいからやり続ける、パレスチナとそこに生きる人々を見つめ続けることが大切だと思う。

 

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